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3月 03 2008
「杉浦日向子の食・道・楽」(2006年刊 新潮社) プリント
2008/03/03 月曜日 00:00:00 JST

かつてNHK 「お江戸でござる」を日向子先生見たさにチャンネルを合わせ、その解説を楽しむためだけに、泣きそうになる昭和ギャグ満載の「コメディ」を視聴していた私 にとって(でも桜金造は好きでした)、新しい作品が読めないという事実に落胆する数少ない作家の、最後のエッセイ。

 

TV ではホカホカと笑い、柔らかな語り口の非常に温和な女性に見えるんだけど、書いたモノを読むと結構辛辣で毒舌王だったりして、そのギャップに余計にクラク ラ魅了されていた。あまりに粋すぎて絶対になれっこないからこそ「ああなりたい」と手放しで憧れていた私には、当たり前のシンプルな食に関する事柄を気持 ちよくふわふわと読めるこの本の一言一言が魅力的でその粋さが羨ましい。

「恋人の食卓」の章では恋人同士は向き合って座っては「だめだめだめ。」と言う。それは「正面から見つめられると、ひとは無意識に顔をつくるから、本音が見え ない。」からで「並んで座って、ふと横顔を見てごらん。無防備に、くつろいでるから。それがそのひとの素顔」なんだそうで。

 

あ、 そういえば、私の知ってる女の敵のような異性の途切れない男性が「二人の食事で正面向きは逃げ場がなくて気詰まりでいやだ」と言っていた。ちなみに私はそ の人が違う方を見て彼の言う「逃げ場」を作っているタイミングに骨付き肉にむしゃぶりついていた。その瞬間に「ふと横顔を」見られたりしたら私は鬼の形相 の肉食人種であるが、確かにそれが私の無防備にくつろぎまくっている素顔だったりするわけで、日向子先生、残念な仕上がりの私ですがとても真実です。

 

この本の開いてすぐある「正しい酒の呑み方七箇条」は読むだけでいい気分になる。

しかし酒豪日向子先生は「へべれけになるやつは、酒呑みのアマチュアだ」とばかやろう呼ばわり。でもその数行後「呑んで酔わないなんて、酒の神様の罰が当たる」ともあって、良かった、私はおおばかやろうだけど罰はあたんない、と今日も安心して呑める。

 

この本の最後に「最期の晩餐」という文がある。

2005年に46歳の若さで亡くなってしまった、粋でいなせな現代の江戸人が、「最期はこれ」と決めている一品はシンプルすぎるゆえに今となってはなんだか切ない。

下咽頭癌で亡くなった日向子先生が、最期に一口でもこれを食べられていますように。
 
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